2016年 03月 05日
IC か SES か? フリーITエンジニアの闘い
SESという言葉自体、最近まで私は知らなかったのだけれど、IT業界ではよく行われる「(名目)請負業務、(実態)偽装請負」のことです。中には「PC持ち込み歓迎!」とかの条件を出して、わざわざ「(実態)派遣業務」を「請負業務」に見せかけるやり方もあります。請負業務としては「成果物」を納品しなければならないのだけれど、SESの「成果物」はずばり人月評価が簡単な「タイムカード」。その時間に常駐し、技術を提供していたというのが成果物です。実態として、「顧客の要求(”指示”と読みます)」に従って仕事をするため、顧客も指揮系統、作業の要求のやり方を、一歩間違えれば、確実に「偽装請負を受け入れた」ことになります。Plan Do Check Action の PCDA サイクルの Plan が全くないまま、成果物という目標が描けない。DO と Action のサイクルしかないのですね。
実際にIT関連の人材募集で「業務委託」という案件があれば、ほぼ確実にSES、事実上の派遣業務です。
なぜこんな滅茶苦茶な仕事の在り方が日本で通っているかというと、一言で言えば、日本のIT産業の未成熟さ、人月商売から脱却できない。多重請負、PM不在の顧客などの日本固有のビジネススタイルにあります。さらに言えば顧客のセンスのなさ、それを補って付け入る、技術力がないSI事業者、などがあるでしょう。
不思議なのは、外資系企業で仕事を請け負うと、こんな国際的な非常識が全くまかり通らない事です。たいていは日本人のITマネージャが居て、フリーランス、外注、ベンダー、派遣社員の業務目標をしっかり管理できる人が居ることです。だからなのか、私は日本企業の顧客のITマネージャの質を高く見ていないし、その足元を見ているSI事業者も信用しない。だから外資系企業のIT担当者は大抵、外資系企業を渡り歩いてスキルアップして、転職した方でもまだお付き合いがあります。なぜか外資系企業の方が責任が明確でやりやすいし、仕事にも集中できる。代々の日本の国策は「雇用の安定」を謳っていますが、「雇用の流動性」がないため、経済社会が固定化されて進歩しない。
よく「フリーITエンジニア、年収800万」とかあるけれど、実際SESで800万稼ぐとなると、たぶん地獄を見そうな気がします。アイドリングできないのですね。それだけスキルを磨く暇もない。人月60万の仕事を12か月連続で受注できれば、それくらいにはなるけれど、12か月連続受注というのがそもそも無理。しかもこの800万の中には経費も含まれるから、実質手取り500万程度が現実でしょうね。さらに、「売上1000万」のフリーエンジニアであれば、しっかり「消費税」という落とし穴があるから、「年収1000万超」のフリーエンジニアの実質手取りは700万程度じゃないかと思います。月単価80万で12か月なら「年間売上1000万」も夢じゃありませんが、これはSES価格であり、実際には顧客からの発注額は120万位だと思う。その価格だったら、「あなたの命は保証できない」という業務内容になりそうです。
それより無理なのはICで年収800万稼ぐことも現実無理なんですけれどね。でも、ICの場合、準備3週間、3日稼働で100万稼げる場合もあれば、1年で10万にしかならない仕事もある。
ITエンジニアでも、運用、保守、構築系の技術仕事では、「人月」ではビジネスにならない。システムの構築に3時間で終わっても、60万取る場合もあるし、10分で設定1行変えて30万とか、3か月かけて毎週週末の深夜に原因を調べてトラブルシューティングして5万というケースもある。作業時間の実績より具体的な成果が物申す仕事なのです。SESのフリーエンジニアと違い、ICエンジニアは具体的な「成果、結果」をださなければならないため、安くても完遂するし、短い時間の労働であっても高い「報酬」を得ることも可能なのですが、IT業界自体が「時間」という物差しでしか技術者を評価できない業界の慣習のため、「成果」を時間でしか評価できない。
派遣業であれば、業者が個々の派遣さんのスキルアップをして単価を上げる努力をするのですが、SES契約では、個々のスキルアップはエンジニアが単独でやらなければならない。もちろんそのコストは顧客は払いません。しかしそのスキルもエンジニア個人に属人化するため、顧客にノウハウが残らないのです。しかしより顧客目線のICは「タイムカード」という成果物以外のノウハウを顧客に残そうとするでしょう。こうした成果物が後の受注につながるのです。しかし、残念ながらSESという「甘味」を知った顧客にはタイムカード以外の「成果物」を評価できないのですね。顧客もエンジニアも「時間」でしか、成果をコミットできない。
それにしても、私が独立してから、フリーエンジニアという言葉がずいぶん一般化してきたように思います。しかし、その実態はほぼSESであり、ICのように、たくさんの顧客の中を泳ぎ回るような形態ではないのは、エンジニアの側にも問題があるのでしょう。ICは営業力とかアイディア、技術がキモなのです。営業力のない技術バカな私の様なフリーのICは厳しい世界なのです。そしてフリーエンジニアの営業力を阻害しているものがSESをはじめとするSI業界の悪弊かも知れません。もちろんICを名乗らないフリーエンジニアの中でも独創的なアイディアと技術を持って、「ご指名仕事」をする人もいます。こういう人には本当に頭が上がらないですね。
SESではなくフリーエンジニアとして成功するには、コネと特殊な技術、それで営業する能力です。
SESという「ビジネス」に未来永劫将来があるとは思えません。法律の抜け穴を使った一時的なボッタくりバーのビジネスです。もっともSESという一時的な「口入屋」を専門にしているのならばそれで構わないのですが、SI事業者を名乗っているのに自社請負の業務をSESに丸投げするのは、自社の技術力を放棄している事に他ありません。本来ならば、受託できる部分は受けて、足りない部分をフリーランスに協力して自社のPMが管理して請負すればいいのですが、それができないのが多くのSI事業者なのですね。だからいつまでたっても多重派遣構造から抜けられないし、PMも育たない。だから、求人サイトで何度も同じ業者の名前を見つけた時は「まだこいつやってんのか」って気分になります。これはSES業者であっても、顧客企業でも一緒ですね。
そんな不自然さに気が付いたSI事業者や顧客は、二度とSESの求人広告は出しません。自社技術が必要だという事に気が付い社員教育にお金と時間をかけています。
PMも、顧客がやるのならまだしも、中堅レベルの下請けSI事業者のPMとは、肩書でしかないわけです。職場から一歩も出ず、仕様書やメールのチェックが仕事。つまり、中間管理職になり損ねたプロフェッショナルのゾンビがPMというSI屋の肩書なのです。当然、何もさせてもらえないのに、部課長クラスと同じ給料を支払うため、下請けに出す時のコストに跳ね返ってくる。一方、顧客のPMも肩書だけの場合もありますが、多くの中小企業の場合、ビジネスの継続に必死ですから、事業担当者が兼任PMとして頑張る場合もあります。たいていこういうケースでは、お客様は事業継続に必死だし決断も早く、私も応援したくなる臨時PMさんになってくれますし、私の考え方も理解してくれるようです。私より年配の方でも「勉強になった」と謙虚な人が多いようです。
ICとして、付け入るスキがあるとするならば、顧客のPM業務をICとして請け負うことかもしれません。PMにならなくてもいい。PMを補助できる仕事をしてみたいものです。
islandcenter.jp