2019年 06月 21日
CEさん残酷物語、尊敬すべきチェンジニアさん達の話。
ワタクシの顧客のシステムの調子が悪いということで診断してみたら、しっかりディスクが壊れていた。交換するしかない。しかしメーカーのD社の代理店に頼むと当時1Gのディスクドライブが20万円するという、当時でも20万円も出せば、ディスクどころか本体が2台買えちゃう時代なのにだ。怒った顧客はやはりメーカーの外資系C社に見積もりを依頼した? なんとサービスマンが来て5万円で修理するという。ン? なんでC社なんだ?ということで交換の日、やってきたフィールドSEはD社のH君だった。そう。D社と言えば当時の業界人で知らない人はいない。外資系C社に吸収された大手外資系コンピューターメーカーなのだ。まぁ、イニシャルとはいえD社とC社、後のH社と言えばそのまんま。想像が付かない人なんていないよな。それより、H君を見るまで想像が付かなかったワタクシが悪いといえば悪い。H君はいまだ元D社の新宿区内にあるサービスセンターにいた。彼は以前よく「静電気マン」ことワタクシが壊したマザーボードを交換にワタクシの会社に訪れた事があり、よく知っている仲だったのだ。一応システム屋のワタクシに対して、H君は「いやぁ、システム屋さんはいいですよね。ボクらエンジニアじゃなくってチェンジニアだもん」彼は謙遜してそう言ったものだ。「ねぇC社のコンピュータも修理するの?」とのワタクシの問いにH君は答えた「いやぁ、あれC社の資格がないと修理できないんですよぉ。C社ってまぁウチのカイシャなんですけどねぇ」でもやはり彼はプロだ。「いやぁ次は渋谷なんですよぉ」とのんびりした口調でマザーボードの入ったカミブクロを二つぶら下げ、炎天下、雪カ谷大塚の駅に向かうH君の後ろ姿を見送った。
国道16号を遥かに超えた客先でチンケなPHSのバイブレータが鳴る。「xxさんの所のシステムが止まっているらしい」という緊急連絡だ。あぁぁ、本日も出先からの5時上がりはなしだ。早速なんとか客と連絡を付けると、どうもシステムのマザーボードがイカレているらしい。メーカのサポートに連絡取らせて交換の指示をすように言うと、都心に向かう夕方の上り電車のヒトとなったワタクシである。客先に「どぉもー」と声を掛けて入り込むと、しゃがみ込んでマザーボードの交換に精を出すヤツがヒトリ。グレーのシャツにパンツスーツに包んだ細身の体、肩が細くて胸はペッタンコ。なんと女性のCEさんだ。ここのハードウェアは箱崎製だ。なんと、あそこは女性のCEさんもいるのだな。さすがアッチ方面は侮れない。それにしてもよく話すCEさんだったなぁ。「あ、いやね、このモデルね。結構このテのトラブル多いんですよっ。特に4桁のここが2のモデルねっ。なんかあったら必ずさっさとMB交換することにしてンですよっ」(頼む、黙っててくれ、そのサーバ売ったのウチなんだから....)とヒヤヒヤしているコッチを尻目に、コイツは客の前で次々とべらべらと「Iさんの内輪話」をまくし立てる。「もうこいつは所詮パソコンなんだからぁ。よくやっちゃうんですよねっ。大事なシステムはやっぱこっちにしましょうねぇ。」なんてAZ400だとかというデカイ筐体を指差しながらマザーを交換する彼女。楽しそうだなぁ。(止してくれよぉーお、オレその「パソコンの大事なシステム」の専門家なんだからぁ)まぁ楽しいといえば楽しいヒトトキであるし、お茶をこぼしてお茶ッパくっついた客のメインフレームのマザーボードを交換した話なんて聞かせてくれる。泣きたくなるくらい爆笑できた。おもしろいヤツだといえばそのとおりだ。頭にくるけど、専門家としてはコイツの話は聞いておくに限る。とにかく、「黙ってむっつり」が基本のフィールドエンジニアが業界のほとんどなのに、とにかくI社のエンジニアはゴキゲンなヤツが多いし、結構気軽に話しに乗ってくれているヤツらが多いのも事実。さすが日本のITビジネス業界の中では、サービスに長けているだけのことはあるよな。気の利いた冗談とマジメな「ホンネ」のひとつもサービス業である彼らの仕事なのかも知れない。大体が、客の文句を黙って聞いてあげるのがサポートの役割だ。壊れたからって言って彼らに直接文句を言うのは可愛そうというもんである。文句あるなら作ったやつと設計したヤツと売ったヤツに言えばいいのだ。とにかく女性でこんだけ明るいCEさんは初めてだった。
いかにこのディスクが入手困難かの能書きだけ垂れて、ホットプラグのディスクを「ガチャリ」と交換して「修理終わりました」と深々とお辞儀をして宣言して帰った三田方面のCEさんがいた。ここは官庁に強い。ボクの先輩の顧客もいた。先輩から、三田方面からCE と営業が来て、修理するから立ち会えという。どういう状況かも判らないまま、暇こいていた後輩Y君を連れて、ユタビーチの後背地に「パラシュート降下」しに行ったわけだ。既にCE氏は、荷物を開いて準備している。夏なのに上着を着ていて、セビロの背中から汗の粉を吹いていた。「えぇー、ここにあるディスク2個、一つは昨日仙台にありました。もう一つは昨日の夜に、成田にあったものです。つまり日本には同じ型番のHDDは、ここに二個しかありません」と、斎藤道三の油売りの口上の様なことを言うと、ディスクをガチャリガチャリと交換して「治りました」と宣うたのである。勘の鋭い方ならお分かりであろう。壊れたのはディスク二個、Raid は 5 、そう、全滅なのである。最悪の状態に立ち会ってしまったのだ。「では終わりましたので、これで失礼します」と、クダンのCE氏は、粉吹いたセビロの背中を見せて、真夏の三田方面に撤退して逝った。残されたワタクシ達と、セールスマン氏は茫然と見送るばかりである。その後、五分後には私も手が出ないという事で、引き揚げたんだけど、その後のセールス氏と顧客とに間に、どの様なやり取りがあったかは知らずじまいである。ただ記憶に残るのは、同行したY君の「あのCEさん、背中に気合入っていましたね」という感想だけで記憶に残っている。
影でコソコソして結構シェアだけは多いF2、よく壊れ、行くと必ずCEが昼間っから客のサーバの筐体開いて『解体新書』を読んでいる技術のH、むっつりが多くて、キーボートを触るのはシゴトじゃないと、涙流してこちらの立場を鑑て宣言した、C社のCE。とにかく新品でも最初から調子が悪くてどこでも必ずMBを交換したという話ばかりを聞かされるのに全然マトモに動かない高井戸のP。
ある現場で、どうしてもしつこいトラブルが出続けて、訳が分からず、HDDと筐体以外全部交換してもらったことがある。その時、CEさんがHDDのファームウェアが一つだけ古いのを見つけてくれた。そう言えば、このサーバーは以前空調がトラブった時に、HDDを交換したのだ。そいつのファームウェアが悪さしていたらしい。それから、しつこいトラブルは狐憑きが無くなったように調子が良くなったことがある。CEサマサマな出来事だった。
銀行では、現金に触らない役割ほどエライのだそうだが、IT業界も似たようなものだ。コンピュータに触らないニンゲン程エラいのだ。CEさんは「電話と言う飛び道具」だけで、ズルい遠距離攻撃しかできない電話サポートと違って、直接顧客と客先というアウエイの土俵に一人で乗り込んで組取りで真面目に闘っている。正にIT業界の最前線だ。中にはベンダーのCEさんではなく外注さんの場合もあり、名刺交換に応じる事ができないCEさんもいる。「名前のないCEさん」だ。だから私は必ず相手を尊敬し、「もしまた別な現場で会ったらよろしくお願いします」と挨拶することを忘れずにやっている。重量物を持ち上げる時や、大きなASYを交換する時なんかは、必ず手を貸しすし、明るく下世話な冗談飛ばしながら、彼らにとって「一期一会の楽しかった良い現場」にしようと心がける。正にCEさんとの付き合いは茶道なのだ。