Wi-fi 6 だから速い、という訳じゃない:ネットワーク環境の最適化

Wi-fi が遅い、だから最新の Wi-fi 6 に変えたら早くなるか? を考えてみました。

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-- よく居るんだ、「Wi-fi = インターネット」って誤解しているヒト

インターネット接続の事を 「Wi-fi」だと思っている人って多いと思うんですね。だから、

「インターネットを Wi−fi 6 に変えたら速くなるの?」

ってトンデも質問をしてくるヒトって多いと思います。

結論から先にいうと、

「Wi-Fi6 だからインターネットが速くなるわけない」

という事です。


光10G 時代のネットワーク機器選び




-- 早い? 速い

同じ読みでも字が違います。「速い」は速度で、「早い」は時間を伴う意味を持ちます。

通信の「速さ」は、光ファイバーでも電波通信でも、ほぼ1秒で地球7週半、30万Km/sで同じです。たとえ昔ながらのモデム機器でも最新の光ファイバーでも、通信の「速度」はほぼ同じで、到達する速度は30万Km/sなのは同じです。アポロの月探検の宇宙船の時代も、現代の高速光ファイバー網でも、光と信号の伝わる「速さ」は物理の法則に縛られ、素材や技術に左右されることは有りません。

まぁ通信が宇宙戦艦ヤマトみたいにワープすれば別ですけど。

ではなぜ光通信の方が「早い」と感じるか。それは、従来の通信方式より、光通信の方が「周波数」が高く、単位時間当たりのデータ量を増やすことが出来る。「ダウンロードが早い」は正解ですが「速い」は間違え、「高速」とはなりません。

つまり、「早い」は「回線が太い」ということなのですね。

通信規格は上に行くに従って、周波数が高くなり、単位時間で通信できるデータ量が増えるということです。

ちなみに、電波の周波数というのは波長が短ければ(高周波になれば)直線性がありますが建物や地形などで反射して届きにくくなる特性を持ちます。AM放送より、FM放送やテレビ放送などの高い周波数はビル影では届きにくい。そんなものです。当然 2.4Ghz 帯は室内では使い易く、5Ghz帯では壁で通りにくいなんてことになります。スマートフォンのプラチナバンドは800Mhz帯なので、このバンドを持っていない楽天の回線は室内で使いづらいと言われています。

周波数が高い電波は屋内では繋がりにくい。ここポイントです。試験に出ます。

Wi-fi 6 が電波干渉を受けにくいのは、家庭内に飛び交っている電子レンジや Bluetooth などの 2.4Ghz 帯を使わず。5Ghz帯を主に使うことが一つの理由です。


-- Wi-fi 6 ?

Wi-Fi 6 は、正しくは IEEE 802.11ax で規格設定された、免許不要の無線通信規格です。と書いたところで  となるヒトは必ずいるわけです。 IEEE 802.11ac より「早い」と言われても、ビジネスマーケティング的に消費者に分かりにくいンですね。そこで「数字が大きければエライ」の原則に従って、通信規格を分かり易く数字で表そうじゃないか、となった訳です。

という事で、お馴染みの Buffalo さんのウェブページに優しく説明が載っていました。

Wi-Fi 6はなぜ 6 ?「Wi-Fi 6」は、第6世代のWi-Fi規格



という事で。Core3 より Core9 がエライ、8Gのメモリより16Gのメモリの方がイイ、と同じく Wi-fi 5 より Wi-fi 6 の方が「スンゲー」という商売上の理由で、IEEE 802.11ax の事を Wi-fi 6 と呼んでいるんですね。

ポイントは、「免許不要の無線通信規格」というところで、携帯電話の通信方式でも、自宅に引き込んだインターネットのネットワークケーブルの通信仕様でもなく、単に手元のスマートフォンやパーソナルコンピュータと、宅内の無線ルータを繋ぐ極短距離の通信規格なのです。

じゃ、2021 現在主流の Wi-fi 5 (IEEE 802.11ac) より、Wi-fi 6 にすればいいのか? という単純なギモンに応えてやろうじゃないか、という無謀な試みをしてみます。



ホントに Wi-Fi 6 っていいの?



-- Wi-fi 6 対応ルータでも、1Gbps の有線ポート

家電量販店だとか Amazon などの通販サイトでは「W-ifi 6」とデカデカと謳う、ホームルータが販売されているのですが、よく仕様を読んでみると

「Wi-fi 6 対応ルータの有線ポートが 1Gbps しかない」

という現実に「慄然」とするワケですね。よーく Wi-fi ルータの仕様をみてみれば


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実際、「最大通信速度 9.6Gbps」が W-ifi 6 のウリなのですが、「その先」が 1Gbps の有線ポート接続なのです。例えば W-ifi 6 対応のタブレット端末などから、W-ifi 6 対応無線ルータに繋がっても、「その先」のインターネット回線との通信速度が 1Gbps であれば、Wi-fi-6 の実力のほぼ 1/10 程の性能しか出ていない。

現行行主流の WI-Fii 5 (IEEE 802.11ac) 規格でも、6.9 Gbps が最大理論値ですから、その帯域すら現行の 1Gbps 光ファイバーのネットワークでは使いきれていないんです。


-- 一般家庭向け光サービスの有線ポートも 1Gbps

じゃぁ、W-ifi 6 ルータの先の、インターネット接続をもっと早いものに変えればイイじゃん、オレあったまイイ!って思ったら、無茶苦茶速いと言う高速通信を提供する NURO光の ONU の仕様を見てみました。

NURO 光のONUはルーター機能を搭載!その種類と性能の違いを比較

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有線ポートの個数は「3つ」ある、の表記はあっても、仕様の中に接続規格が書かれていない「ある」という事が分かるだけ。実際この ONU の取り扱い説明書を読んでみても、ポートの転送速度の記述がありません。プラグの形状すらも書いていないので RJ-45 じゃなくて、10 base-2 の同軸コネクタ(古いな...)かもしれない、 NURO 光は独自の色々なレベル回線容量のサービスを提供しているようですが。有線側の仕様については記載がないのです。Wi-fi の仕様も IEEE 802.11ac Wi-fi 5 でした。まぁ、Buffalo さんの場合「RJ-458極」って書いてあるんで、あ、1000 Base-T だな、CAT6のケーブルにモジュラプラグで繋ぐ、ってわかるんですけどね。

だから推測ですが、NURO 光の ONU のメタル有線側は「1Gbps」なのでしょう。

例え、WAN 側 2Gbps の契約をしても、その先に Wi-fi 6 の、最新無線ルータを有線で繋いでも、論理値 1Gbps 以上は出ません。何しろ途中の経路が 1Gbps なんですからね。




アウトバーンを走っているからと言っても、貴方の軽自動車では時速 300Km/H は出ないのです

-- メタル有線 1Gbps の壁

2021 年現在、メタル銅線を使った有線システムには 「1Gbps の壁」の様なものがあり、どうも業界全体でこの壁を乗り越える事が出来ないんですね。もう20年近く前に規定された、IEEE 802.3an と言うんですが(初めて知った)10 GbT STPメタルケーブル用の、例えば 8 ポートの 1Gbps HUB なら4000円程度で買えるのに、通信容量が10倍になると価格も10倍になる。 8P モノの 10Gbps HUB なら、TP-Link とか Netgear で、大体3~5万円台です。コアスイッチ用 24P とか 48P は見たことない。

この記事見たのが8年前。全然低価格化は進んでいません。


ネットギア、20万円を切る10GBASE-T対応スイッチ「XS708E」など2製品

ただ HUB だけアップグレードしても話は終わりません。PC や NAS と言った機器の有線ポートも 10 Gbps に対応しなければならないのです。さもないと Wi-fi 6 を入れたぜ、な満足感は得られません。ちろん手元で使っている愛すべきタブレット端末も WI-fi 6 対応が必須です。

10 Gb WAN ポート搭載 ASUS RT-AX89X



Qnap NAS などは、比較的安価に 10 Gbps LAN アダプタを提供していますが、ほぼ自作PC市場を見ると、10 Gbps LAN ポートはワークステーション/サーバ用しか見当たりません。後付けで、10 Gbps の LAN カードを調達しようとしても、安心 Intel NIC なんかはヘタなマザーボード並みの値段です。そこまで行くと、NAS なんかも HDD Raid では物足りなくなります。大容量データの物理的な転送速度を分散させる Raid システムだから、SSD Raid で5~6発のストレージが欲しい。さもないと Wi-fi 6 をパンクさせるほどのパフォーマンスは出ない。

それから、LANケーブルも CAT6a 以上が欲しくなる。

マルチギガ NBaseT というテもありますが、どうも仕様が急拵えの中途半端で信用できないし、Wi-fi 6 にはまだ力不足。

何しろ消費電力のモンダイが大きいンですね。ポート当たり長い銅線に高周波の電気信号を駆動するための消費電力がヤバいくらい高い。だから 8p 程度の 10 Gb HUB なら、コンシューマプライス(でも高い)で収まりますが、24P とか 48P のオフィスコアに置く 10Gb HUB なんかは放熱対策が大変で、なかなか世間に出回らないのです。光ファイバーなら熱は出さない。だから、データセンタなんかでは光ファイバーを使います。

同時に、ハイエンドのゲームPCなんぞは、爆熱仕様のビデオカードが搭載されているわけで、これまた爆熱仕様の 10Gbit NIC と併せた放熱対策が必要となります。

という事で、Wi-fi 6 ルータを入れたぜ! のヨロコビを享受できるのは、 Wi-fi 6 のデバイス同士が Wi-fi 6 で通信するようなサービスだけ(今、一体何がある?)で、それほど嬉しいことはない。


ーー そもそも通信先のサービスが 9.6Gbps も速度が出ない

インターネットの様々なサービスを受けるには、サービスする相手もよっぽど強力なインフラストラクチャが必要です。動画配信サイトなどで人気のあるコンテンツなら、半導体メモリを使った SSD のような記憶装置と、コンテンツデリバリのための巨大なディスクキャッシュを使っているかも知れません。

でも、このブログみたいなチャチな記事しかないページにそんなコストはかけられません。たぶんこの記事も普通の Raid のハードディスクにデータが格納されているでしょう。当然、9.6Gbps でコンテンツを流すにはデータセンター内部の配線も全部光ファイバが必要です。普通そんなにサービス・プロバイダがコストをかける事はないでしょう。幹線は光ファイバでも、末葉は 1Gbps のメタルケーブルだと思います。

たとえ貴方の目に見える屋内の設備が高速でも、サービスを提供する側の、例えばゲームサイトのサーバー側のセンターの設備が、 1Gbps 有線だったら遅いと感じるし、データが低速なサーバに置いてあれば当然遅い訳です。

例え経路途中が 120Km/h の新東名でも、乗り換える途中が国道 246 号の厚木ICを経由するようであれば、当然インターチェンジで苦労するはず。 

-- それでも WI-fi 6 の無線ルータは欲しいなら理由はある

正直なところ、2021 年現在、IEEE 802.11ac Wi-fi 5 でも使いきれていないのが、今のホームルータ市場なのですが、あえて Wi-fi 6 を入れる意味についても考えてみましょう。

何しろこの数年、無線通信デバイスの異様なほどの普及の意味は大きいのです。数年前はノートPCとスマートフォンがビジネスマンのビジネスガジェットだったものが、コンピュータゲーム、タブレット、ChromeBook の爆発的なヒット。5人家族の世帯でも一人2~3台の無線デバイスを使う時代なのですね。だから、現在の IEEE 802.11ac Wi-fi 5 では、圧倒的にチャネルが少なくなっているのです。

つまり通信帯域が厳しい。

また、2.4Ghz 帯の通信干渉問題も何とかしたい。通信は周波数が上がれば通信容量が増えるし、チャネル数も増やせます。

WI-fi 6 のメリットとして、「遅延が少ない」というのがあります。ここで 「Wi-fi = インターネット」で誤解して居るヒトにとっては、そりゃいいじゃん、という事になるんですけど。遅延の少なさは、あくまでも Wi-fi の機器間の遅延であって、手元のデバイスから通信先のサービスまでの経路全てが Wifi 6 以上のスループットを出さなきゃいけない。

極端な話、「YouTube が遅い」のは、貴方の環境ではなく、途中のプロバイダのサービスレベルの問題だったり YouTube のサイト自体のモンダイかも知れないのです。たぶん私のド。マイナーな YouTube チャネルのコンテンツなんて、一日数回も再生されればいい方だから、下手すれば Google さんの裏の物置のサーバに保存されているかも知れない。クリックしてから再生が始まるまで時間がかかるわけです。

Wi-fi 6 ルータがあって遅延が少ないのは、同じルータに繋いで、隣同士で対戦型ゲームでもやるには遅延少なくていいでしょう。しかし、ルータからキャリアの回線を通れば、どこもベストエフォートなんですね。

まぁ、将来のテクノロジーへの投資は常に考えておく事です。10Gb HUB が5000円台で購入出来て、PCの有線ポートが 10Gb が普通になる日が来るかも知れません。(個人的には10年待ってるけど一向にその気配はないのですが.....)ひょっとしたら、コンシューマ向けの光ファイバーシステムの方が先に普及したりなんかするかもしれません。

それから、販売する側のコンシューマ向け無線ルータの品揃えが Wi-Fi6 しかなくなってきている。スマートフォンの規格が5Gしか選択がなくなっているのに、エリアは対応していないのと同じなのです。何しろこの時代、低価格化した Wi-fi 6 の部品を使ったほうがコストが安くなります。私達コンシューマとしても、将来の投資、準備になるわけです。

また、インフラコストの高い光ファイバーの家庭向け配線は 5G 6G による無線通信に置き換わる可能性もあり(?)... 当面ないと思うなぁ...

無線でデバイス同士を繋ぐのは、信頼性、セキュリティ、確実性からも、施設内のネットワークの主流になり得ない、と思います。

まぁ、今時点だと、高価な Wi-fi 6 ルータより、投げ売り状態の Wi-fi 5 (IEEE802.11ac) のルータを使い倒した方が良さそうな気がするんですけどね。

大体、Wi-Fi6 ルータの有線ポートが 1Gbps の段階でアウトですね。10Gbps のポートが付いているルータもあるにはありそうですが、そもそも高価すぎるし、対抗する PC や NAS、インターネット回線、サービス・プロバイダが 10Gbps 以上のサービスレベルじゃないと意味がないじゃないか、という事です。


光10G 時代のネットワーク機器選び







by islandcenter | 2021-07-28 16:40 | Internet | Comments(0)