2022年 05月 06日
サブスクリプション戦争、お金をドブに捨てる?

限界費用:ポテトフライとクラウドビジネスを読み解くという事で、音楽など、過去のレコード、CD、ビデオの時代は、コンテンツを流通させるためにはジャケットやケースと言った包装媒体、輸送費、在庫しちゃったメディアの倉庫費。ショップの陳列棚のコストなどバカにできない費用が音楽や映像の流通に掛かっていたわけですが、デジタル流通、ストリーミング配信に掛かるコストは限りなくゼロに近い。せいぜい一曲ストリーミングする毎に支払う権利費用は1回あたり、せいぜい数銭とも言われ、千円弱/月支払うサブスクリプションで、配信者側には莫大な利益が上がります。
音楽サブスクを嫌がるアーチスト・楽曲提供者っている訳ですよ。まず、音質の問題。山下達郎の日曜日午後の JFM の「サンデーソングブック」を聞いていると分るのですが、山下達郎は自宅に大変な量の音源を所有しているみたいですね。「棚からひとつかみ」の週では「なんでこんなの持ってるの」みたいな曲がかかるのが楽しい。音源にコダワリがあるようで、おそらくストリーミングの音質には疑問があるのか、音楽配信はしていないらしい。アルバム感がなくなる事を嫌がるミュージシャンもいるでしょうね。ストリーミングは、料理で言うトコロの一品料理なので、これが嫌い。ミュージシャンは「アルバム」というフルコースを提供して「良い悪い」を評価されたいと考える人もいるわけです。シングルカットされたような一品ラーメンを、中華フルコースのアルバムから抽出される事を嫌がるミュージシャンもいる訳です。これは音楽ファンにも当てはまります。やっぱコルトレーンは「マイ・フェイヴァリット・シングス 」だよな、みたいなですね。やはり一番の抵抗勢力は、レーベルだったり、所属事務所の抵抗の様です。私はもちろん素人ですから「中の大人の事情」はわかりません。結構大手のプロダクションなどの大人の事情によりサブスク化、ストリーミングを嫌うミュージシャン、楽曲権者は多いようです。ストリーミングによるサブスク楽曲使用料が余りにも安すぎてCD売った方がマシ、という権利者側の根本的な事情も大きいようです。特に大物アーティストにはこの層が多いようです。何しろストリーミングあたり数銭程度とかなんだそうでバカばかしくて楽曲提供したくない。しかし無名アーチストとしては、ストリーミングも一つのチャンスと捉えている一面もあります。ライブ開催が困難な今日この頃、ストリーミング命なアーチストもいるでしょう。
利用者からすると、例えば Apple Music を利用するには iOS や mac で Apple 製 Music アプリか iTunes が必要です。ストリーミングは関係ありませんが、「ダウンロード販売」して「購入」したコンテンツは、他のデバイスでは再生できません。たとえ Sony の Walkman でも使えません。これはAmazon Music Unlimited も同じです。あたり前な事ですが。「購入したジブンのモノ」を自由にできないんです。他のデバイスで利用するには例えば Apple と契約すると iTunes とか Apple Music アプリケーションが動作する事が必要なんですね。著作権保護が目的なのですが、それ以外に自社サービス、結果的に自社製品への囲い込みという事になります。当たり前だけど、購入したコンテンツを中古ショップに売る事もできない。ジジババの遺品に大量のLPレコードがあれば、中にお宝があるかも知れないけれど、音楽サブスクリプションで作ったプレーリストは遺品にはなりません。という事で、多くの場合、プレミアムなプランに入って、家族でアカウントを共有しなくてはいけないという事です。折角「購入した」コンテンツであっても「垢バーン」されてしまったり、運営者側のなんらかの不手際やビジネス上のトラブルで二度と再生できなくなるケースだってあり得るわけなのですが、そう言った不安があって、中々サブスクリプションサービスに加入するのがちょっと怖いナ、と思う事も感じるのです。この点は Apple Music よりストリーミングに特化した Spotify の方が潔いと言えば潔い。フリーウェアでMP3 に変換もできるらしい。合法かどうかは判りませんけどね。
電子書籍は百花繚乱です。「大手」と言えばサブスクではないけれど Amazon Kindle という訳ですが、全てを網羅している訳ではありません。その他の「読み放題」サブスクリプションサービスは海千山千のようです。まず、出版業界というのはマーケットが意外にも小さく、出版社自体も中小、零細企業が多く、出版物という「フィジカルな製品」を作る印刷業、製本業も零細企業が多い事です。容易にフィジカルな製品をデジタル化できる基盤を出版業界の中で完成できていません。また、出版社と著作権者との間では出版物のデジタル販売に関して、事前に合意されていない事が多いと「中のヒト」が教えてくれました。通常は「紙による出版」を前提として契約してきたのだそうです。したがって、過去の書籍の中にはデジタル出版が版権の関係で困難なケースが非常に多いのだそうです。また、出版する際に印税を何%にするかの契約もあり、この中にはデジタル化される場合の取り分の契約が行われていないので、既にある本をデジタル化するには、新たに契約を結ぶ必要があります。ヒット作家の場合の一般的な印税は売上の一割程度の様ですが、デジタル出版の場合の印税率は高いようです。ただしデジタル出版自体、単価も安いという事になります。フィジカルな本が 2,000 円の場合、Kindle 版は 800 円とかですね。これが「読み放題」プランの場合はどうなるかは事業者によってマチマチでしょう。出版物はメディアの中では歴史が古いため、著作権を所有する権利自体が曖昧で、古い書籍や資料なんかは簡単にはデジタル化できないのです。勿論「青空文庫」のようなパブリックドメイン化した「作品」を「デジタルテキスト化」して配信している所はよく見かけますが、電子ペーパーで読めないので、エディタを使って読むのはかなり苦痛です。一旦製本されてしまったものを音楽や映像の様に簡単にデジタル化できない。本をバラシてスキャナで自炊するしかないのですが、スキャンしたデータ(画像)は文字情報になりにくいのです。過去の新聞や古い出版物、希少性の高い学術書などを電子化するのが容易ではないのが残念ですね。まだまだ国会図書館に行かなければならない出版物や資料の方が圧倒的に多いでしょう。という事で、オンライン書籍化が可能なのは、90年代以降の出版物に限られているようです。新刊マンガや雑誌、新刊のライトノベルや実用書などはオンライン化されていますが、希少書などを探すのはまだまだフィジカルな出版物や神保町の古書店、国会図書館に限られそうです。雑誌やマンガは「サブスク読み放題」のサービスはよく見ますが、一旦入ってしまうと浮気ができないのが難ですね。出版物のサブスクは、「ツン読」ができません。後で読もうにもそのサブスクリプションを継続しておく必要があります。また、後で読もうとしたらいきなりサービスが終了してしまったケースがありました。
主に音楽と出版物に関してサブスクリプションってどうよ、を考えてみました。サブスクリプションは決して万能ではないし、ヒットコンテンツに頼り切ってしまえば利用者は「唯の大衆」の一部に組み込まれてしまうのかな、という気がします。大手が提供する「オススメ」に頼ってしまうといつまで経っても「大衆」で終わってしまいそうで、自分なりの個性を創り出すには、それなりのコストと手間は必要なのではないかな、と思います。サブスク便利だねー、で終わらない自分探しの手段は幾つか持っておくべきですね。