2024年 02月 17日
国産格安ミニPCは? 電卓化したパソコンの新たなカテゴリ
まず結論から言うと、国産メーカーでこのカテゴリのPCは「あり得ない」と言ってもいいでしょう。まず出てこないでしょうね。
まず Mini PC とは
・弁当箱サイズのデスクトップであること・ラップトップ用 CPU、メモリを使用していること・Windows Pro Edition (多国語版)がプリインストールされていること・キーボード、マウス、モニタは付属もしていなければオプションの用意もないこと
必須ではないけど
・低価格であること・メモリ、SSD の仕様を選択できること(アップグレードではない)
結果として
・多くが中国の新興PCメーカーである・メモリ、SDD のアップグレードが格安で高スペックである・サポートは期待できない
一番の魅力は、格安でそこそこスペックや性能が良く、Windows Pro 版を搭載している点です。
Windows11 Pro は
・Hyper-V, WSL が使える・リモートデスクトップが使える・グループポリシーが使える
個人的にはこの3点が魅力です。他にも BitLocker やドメインが使える所も魅力ですが、やっぱり IT エンジニアとしてやってきた以上、Home 版は使いづらく魅力がありません。やっぱり Hyper-V と WSL、リモートデスクトップは魅力的なのです。たとえホビーやゲーム目的でも、Windows はMicrosoft アカウントを強制されない Pro 版を選びたいという人は多いでしょう。でも、国内で通販で売られている、あるいは量販店で扱われている個人向けの PC はほとんど HOME 版です。 BTO ブランドや、ショップ・ブランドは Pro 版に数千円プラスでアップデート可能なのですが、多くの大手メーカー製ブランド、店頭販売モデルは、まずほとんど HOME 版です。そういう目的には実に最近流行りの中華 Mini PC はピッタリなのですね。
「十万円以下で固定資産にならない経費処理できる Windows Pro モデルのそこそこなのが欲しいんだが.....」
個人事業主や零細事業者にとって、10万円を超える機材は固定資産になってしまうので、10万円を超える機材はなかなか購入できません。大企業なら、大量導入で割引が期待できますが、小規模事業者は数台の購入になるため、ほぼ正価で購入になります。安い個人向けの量販機種は HOME 版しか選べないし、 Pro 版搭載のラップトップはどうしても高価になりがちです。その点、今流行りの Mini PC は10万円以下で購入できて Pro 版という所に惹かれてしまいます。モニタとキーボードは別払いなので、自分の好きな仕様のものが選べます。と言ってもマウスとキーボードは有線かドングル無線のものがセットアップには必要なんですけどね。
よく、中国製品やサービスが米国国内で禁止される、IT業界のチャイナ・リスクってあるのですが、中国製品を使う事によるチャイナ・リスクってあるのでしょうか。チャイナ・リスクは微妙ですね。潜在的にあると言えばある。でも多くの部品は世界共通のパーツだし、BIOS も AMI だったりするので問題ないと言えば問題ないんです。そもそも NEC も Fujitsu もレノボも Daynabook も中華資本となってしまったので、同じリスクはあることも知っておかなくてはいけません。皆さんが使っているスマートフォン、Android も iPhone も実際のアッセンブリは中国です。コロナ禍で上海のロックダウンされた時、供給が滞ったことは記憶に新しい。いかにも「怪しい中華」と言った感じがしますが、今どきスマートフォンの周辺機器や、IT 関連機器から、宇宙航空軍事に至るまで、中国企業を抜きにグローバルレベルのテクノロジーは語れないという現実に目を背けてはいけません。米軍と赤色中国軍が西太平洋で軍事衝突死た場合、意外と侮れないのが、中華テクノロジーなのです。少なくとも 1980 年代の世界ではない。2020 年代の世界情勢、経済、技術は中国抜きでは考えられないと言う事に私達古い世代は気が付かなければならないのです。そうでなければアメリカがこれほど「台湾有事」にエネルギーを使うわけがありません。
ASUS や Epson をはじめ、中小ショップ・ブランドや BTO ブランドでも「省スペースPC」として「Mini PC もどき」のラインアップがありますが、微妙にポイントがズレています。値段の割にスペックが低い。最低価格のモデルは、Celeron だったり、見かけが安い8Gbメモリのモデルだったり、CPU やメモリがデスクトップ向けだったりします。そして OS は "Windows11" としか書いていない。まず間違えなく HOME エディションです。これでもう「アウトオブ眼中」になります。デフォルト Windows11 HOME の時点で、私が定義する Mini PC のカテゴリから離れてしまいます。やっぱり、サポートや販売にかかる「コストを掛けている」感は否めません。割高に感じてしまいます。
今の Mini PC に関わる動きは、90年代中頃の Windows ブームの頃の PC 業界を思い出させます。あの当時は、エレクトロニクスメーカーであればどこもかしこもパーソナルコンピュータを売っていました。Acer で製造された台湾 OEM PC に日本の自社のロゴをくっつけただけのバッジチューニングをした PC にあふれていた時代です。PCに ベンダーは国内だけで数十社はあったと思います。国内資本だけでなく、米国の PC ベンダーも含めるともう数知れず。当時、私が使っていたのは、イタリアのオリベッティ製の PC でした。中を開いて何か特殊な仕掛けがあるかと言えば、別にトマト・スパゲティの風味もない無骨な臭豆腐風味の台湾デスクトップです。当時は資本力がなくてもマーケティングと品質管理が適当にこなすことができれば、どんな企業でもパーソナルコンピュータ業界に参入して、これを手がかりに IT 業界に参入できた時代です。今、米国の PC ベンダーといえば Dell と HP しか思い出せません。Packard Bell も Gateway も Compaq も IBM も今はなき過去の PC ブランドです。今の中華 Mini PC 百花繚乱時代は、90年代の台湾メーカーの台頭を思い出させます。製造拠点が台湾から、中国本土に移っただけ。今 Mini PC ベンダーの数を数えると、PC ベンダーが海千山千あった90年代の PC 市場を思い出させます。さぁーて、どこが生き残るのかな? そんなババ抜きマーケットの時代なんですね。Mini PC のヒットは、一時期の電卓戦争によく似ています。雨後の筍の様に中国メーカーが立ち上がり、より高性能でより安価なパーソナルコンピュータが開発、販売されることでしょう。もうこれはババ抜きでうす。勝ち残った電卓メーカー、PC メーカーはどこか。コモディティ化の果ていずれ地力のないベンダーは淘汰されるでしょう。Dec が Compaq に買収され、HP に集約されたように、今は米国でも大手二社しかないのです。
そんな PC マーケット事情の中で、国産メーカー、NEC や Fujitsu なんかが、新規にMini PC 市場に入り込む事は考えられません。そもそも国産 PC メーカーってどこよ? と言う疑問があります。既に NEC も Fujitsu も Lenovo 傘下だし、Dynabook は Sharp こと Foxconn 資本です。せいぜいパナソニックか VAIO くらいしか国産って言えないし、中堅どころでは MCJ くらいしか見当たらない。もしカテゴリとして Mini PC を発売するとすれば Lenovo からの OEM で自社バッチをつけるでしょう。でも、個人向け、量販店向けには当初から販売するとは思えません。BtoB 向け、企業向けの省スペースデスクトップとしての企画品はあるかもしれないでしょう。あるいは Mouse Computer などの中堅国内メーカー、BTOブランドが、海外からの OEM で自社バッチをつけて売る可能性はあるかも知れない。MCJ に限らず、Acer や ASUS などの台湾系メーカーが入り込む可能性はありそうですが、今の中国系、新興ベンダーの様に次々とモデルをだしてくるだろうか。台湾資本の PCベンダーは以外と慎重に動きそうです。あるいはドン・キホーテも一つのブランドだとすれば、N100 搭載デスクトップを 19,800 円で出してくる可能性もなきにしもあらずなのでしょうか。あるいは バルミューダが 20万円クラスの「デザインだけの」 Mini PC を出してくるか。(段々妄想が怪しくなってくる)
Mini PC はなぜ安いか。それはひとえに「サポートが無い」事に付きます。サポートが無いというより、ちょうど、ソフトバンクが ADSL モデムを無料でばらまいていた頃のように、まず製品、商品ありきで作って売って、ばら撒いている、という状態だと考えてもいいでしょう。実際、私が購入した Minisforum NAB6 のサポートページには、 WIndows 用のドライバがダウンロードリンクがあるだけです。故障した時の修理申し込み連絡先もない。もっとも Minisforum は24ヶ月保証でポリシーも日本語の記載があるので安心できる方です。他のメーカーでもほぼ販売は Amazon 任せ。初期不良は、Amazon へクレームをつけて返金してもらうか、同等品への交換サービスになるようです。そんなことで不安はないのかと思えますが、何しろ Mini PC にはキーボードもモニタも、ウェブカメラも付いていないし問題を起こしやすいバッテリーも、故障しやすい HDD のような機械部品もありません。せいぜい壊れそうなパーツといえば AC アダプタと CPU ファンくらいしかありません。開梱して、モニタとキーボードを繋いで電源入れても何も映らない。それは Mini PC が原因ではなく、モニタの不良かも知れないし、機器同士の相性の問題もある。Mini PC ベンダーとしては、貴方が使っている環境、周辺機器の構成でテストなんかはしていませんから、それでサポート対象外なのです。もし、MIni PC ではなく、ラップトップのようなプラットフォームだったらどうでしょう。もう、私達が購入してアンボックスした時から始まる
・付属品は揃っているか・電源は入るか・キータッチに不自然さはないか・バッテリーはちゃんと充電できるか・Webカメラは目的の性能をだせるか。・マウスが異常に駆けずり回ったりしないか。
といった「周辺機器ちゃんと動くか問題」があるのでしょう。キーボード、モニタ、マウス、Webカメラを取り除いただけで、PC の価格は半減します。そうした周辺機器のチョイス、接続、設定、サポートはユーザ側の問題、周辺機器メーカーのサポートに聞いてくれという事になります。 Mini PC を販売する側からすると、顧客サポートにかかるコストも少ないでしょう。Mini PC 本体を格安に販売しても、十分ペイできるのでしょう。Mini PC ベンダーにとっては、インターネットに繋がるか、モニタはちゃんと映るのか、プリントアウトはできるのか云々といった問題は全てユーザの責任だし、プリンタが使えないのは、ソフトウェアか、プリンタの問題で、周辺機器のサポート連絡先に電話しろ、と開き直れるわけです。実にうまい手なわけです。ラップトップコンピュータから、液晶画面とキーボード、マウス、バッテリーを取り除いてしまえば、PC 本体の値段は意外と安く、サポートコストも低く抑えられるのです。
Chuwi の似たような N100 MiniPC とN100 ラップトップを比べてみれば、なるほどその差額がディスプレイとキーボード、内蔵バッテリの価格なんだな、と解ります。(Chuwi は Windows HOME 版か....)もっとも、GIGA スクール構想でさんざん悪評をバラまいた Chuwi なので
徳島の「学校タブレット大量故障」にみる、GIGAスクールの“想定外” なぜそんなに壊れるのか
品質の悪さはもう定番と言ってもいい、というネガティブな印象がついてしまいました。
パーソナルコンピュータもスマートフォンも、もう電卓の様にコモディティ化した商品であり、新規参入は難しい分野だったわけです。しこに相次いで新興の中国メーカーが多数参入してきた、という事はとても驚くべきことです。もうPCメーカーというのは、これ以上増える事はないだろう、という分野に新たに参入してくる。これつまり市場としてはニッチでありながらも誰も目をつけてこなかった分野だと言うことです。Mini PC は新しいブルーオーシャンとなっています。久しぶりのエレクトロニクスガジェットの新しい市場だから、これほどのベンダーが生まれて競合し、ババ抜きの終点に向かってチキンレースをやっている。Mini PC は家庭内の 15.4 インチクラスの据え置き型ラップトップ(ラップクラッシャー)PC の市場に食い込むだろうし、ITX ベースのコンパクトPCの市場を確実に奪っていく可能性があるでしょう。既に Mini PC は、モバイル向けの GPU を搭載したモデルも出始めていて、ローエンドのゲームPCや、クリエーター向け PC の一つの選択肢にも上がるでしょう。ただ安いだけの怪しい中華ガジェットの範疇から確実に市場を広げています。
でもこの分野に、日本の PC ベンダーが「日本製」を謳って参入するにはなかなか厳しいハードルがありそうです。国産を歌うにはよりよいサポートと品質、そして厳しいコストダウンが必要なのです。残念だけど今の日本の電子機器メーカーにはそういった「イキオイ」と言ったものが感じられるメーカーがいない。PC ビジネスは日本企業にとっては Joker に過ぎません。電卓社会のババ抜きゲームに飛び込もうという日本企業は考えられません。
もしあり得るとしたら、大手からスピンアウトした新しいサブブランドとして独立してしまう。まぁ玄人志向とメルコの様な関係ですが、流通も開発も独立させて新しい PC ブランドとして立ち上げるような方法を取らないと無理だろうな、と思います。それはそれで楽しいことなんですけどね。
さぁて、個人的には次はどの PC ベンダーが N100 や Qualcomm の Oryon SOC なんかの低価格、低電力のサーバー向け PC とかを出してくるかに興味があります。