高等学校におけるケーススタディ:ZENworks を使った「情報社会」のプロの授業

初めて学校にシステムを導入したのは IBM が PSV という低価格のPCを市場に投入してからです。北関東の小さな短大でした。今では笑い話かもしれませんが、当時はまだPCが一般的ではなく、それこそマウスを使うと「センセー!机からはみ出てうごきませぇん」というレベルでした。それから職業訓練学校、専門学校などに導入してきました。中でも公立高等学校に導入した事例が3つかあります。

-情報授業

情報化が進むにつれ、今や高等学校では「情報」という科目は必須の科目となりました。それ以前に学校を卒業した人にはわからないでしょうが「情報」って科目は何を教えているのでしょうか。

A-情報リテラシ
つまりパソコンをどう使うかが目的で、ワードプロセッサだとかウェブブラウザを使って情報を集めて知識をゲットする方法を教える内容です。パソコン教室そのものですね。

B-情報技術
コンピュータはなぜ動くの、つまりハードウェアとソフトウェア(プログラミング)の授業で、まぁ専門学校とか工業高校なんかでやるとよさそうな内容ですね。

C-情報社会
コンピュータにより、どう社会が変化するか。情報技術の進歩によるメリットと暗黒面を教える、ちょっとマニアックな授業です。


まず、高等学校での情報教育はAコースの「リテラシ」が90%ほどになるそうです。私の従兄弟は財政破綻寸前の小さな町の小学校の教員をやっていますが、その町にたった一つしかない小さな小学校にもパソコン専用の教室があるそうで、従兄弟はそこでパソコンの使い方を子供たちに教えています。何しろ過疎化と少子化の影響で空き教室は沢山あるのです。

当然ですが、義務教育でもある中学校でもパソコン教室がないところはないでしょう。

高等学校ならなおさらです。にもかかわらず、高等学校での「情報」授業は小学校でやっている、パソコン教室のレベルを出ていないのですね。確かに家庭科の授業でカロリー計算の方法をやったり、プロ顔負けの立派な壁新聞を作る方法を教える授業もあるかもしれません。

しかし、高等学校の情報教育がこの程度で良いのかどうか、それは自治体の教育委員会が決めることでもありますが、所詮、文科省の役人でさえどういう方向で持っていけばよいのかが判らないというのが実態なのかも知れません。だから「何を教えたらいいかわからない」というのが「情報科」の先生たちの悩みでしょう。

-あえて「情報社会」を教える教員達

なぜか、私が Novell 製品を導入して喜んでもらえた高等学校の担当教諭は、3人とも一番教えるのが難しいと言われるCコース「情報社会」を選んでいます。情報教育の一番難しい「C-情報社会」の授業を選んだ先生達はなぜ Novell を選んだのでしょう。

-ユーザIDという問題 -生徒一人一人にIDと責任を持たせたかった

PCが登場した当初はPCは電源を入れれば使えるもので、ユーザアカウントという概念はありません。この概念がどんなPCにも取り入れられるには Windows NT/2000 の登場までありませんでした。生徒も先生も、PCの電源を入れれば誰でも自由にコンピュータを利用できたのです。

しかし、電子メールが一般社会に普及すると、ユーザIDとパスワードという問題にぶち当たります。まして、PCにIDとパスワードを要求する現在の Windows の出現は、情報教育を担当し始めた高等学校の「情報担当」の先生達の悩みの始まりでした。

そこに、「学校を専門にする」事務機屋出身のSI屋がいい入れ知恵を授けました。

「先生は Teacher:GAKKOMEI 生徒はStudents:ノーパスワードでログインすればいいんですよ」

笑い事ではありません。それが、現在の多くの高等学校の情報教育の現状なのです。現代の社会、大企業でも「同じ方法」をとっているところが非常に多いのも事実なのですが(笑)。まずノーパスでコンピュータが使えるという社会から、パスワードをどう管理するかが重要になってきています。何しろ免許証の書き換えにもパスワードが必要な時代ですからね。

ということで彼らは「コンピュータを使うには自分のIDとパスワードがいかに重要か」を教えることが第一の目標だったのです。

学校は通常40名程度で1クラス10クラス前後で1学年、3学年で1200名程度、教職員も合わせると1300名ものアカウントを管理しなければなりません。しかも3月には400名が卒業し、800名がクラス替えを行い、400名の新入生を迎える必要があります。

これだけのユーザアカウントを管理するためのディレクトリを管理するために、彼らが eDirectory に目をつけたのは非常にいい選択でした。何しろ学校の情報教育にかける予算というのは非常に少ないからです。同じ程度のパフォーマンスを Active Directory で計画すると4台から5台のPCサーバーをSI屋は提案するでしょう。しかし3つのケースではすべて eDirectory はわずか2台でこれらのディレクトリを飲み込むことができました。

また、授業で使うデータ量というのはそれほどではないとは言え、生徒というエンドユーザがどれくらいのデータを使うかは予測がつきません。 Novell の製品はここでもディレクトリ領域のクォータ機能、ボリュームのクォータ機能を提供し、余計なデータで教室のボリュームをあふれさせることがないように設計されました。

-パスワードの同期とシングルサインオン、デスクトップの管理を行う ZENworks

ZENworks の DLU (Dynamic Local User) 機能は eDirectory の認証により自動的にユーザのアカウントをローカルに作成します。したがって教室のPCのアカウントはわざわざ作成する必要もないし、生徒がPC教室、研究室、図書館などに移動しても同じアカウント、IDで利用することができます。しかも eDirectory にログインすれば Windows のアカウントは自動的に作成されます。

また、DLU にあわせて移動プロファイルを使いました。

デスクトップは利用禁止に、保存できるドライブはP:(プライベート)とS:(Share)だけがエクスプローラに表示されます。その他、マップしたドライブを「隠しドライブ」に設定して、授業で使うアイコンや、ZENworksで配布するためのアプリケーション領域としました。 A: C: D: などは不可視なので、CDやリムーバブルメディアは一切利用できません。プログラムボタンを開いても「授業で使う」アイコンしか出なくなりました。ZENworks によって、すべてこれらはネットワーク上にリダイレクトされています。また生徒はファイルの保存先や、使うべきプログラムアイコンを探し出す苦労がなくなり、45分しかない授業をスムーズに進められます。

学校のシステムは最初の授業が肝心です。何しろ1教室40名以上のユーザが先生の指示の元、一斉にログインしてくるのです。こんな過酷な状況でも Novell の製品はタフにこなします。
ですから、立ち上がったシステムで行われる最初の授業には必ず立ち会います。

先生が使うポリシーはもう少しソフトに設定しましたが、グループポリシーでスクリーンセーバーのパスワードロックダウンを使用しています。

彼らのうち一人の先生がおっしゃったことを今でも覚えています。

「生徒にファイルを保存する」という意味を教えたくない。「保存」というアイコンを押せば、そこに保存先が出てくるのが理想だ。「どこに保存すればよいか」を教えるのが「C-情報教育」の目的ではない。もしそれを教えるならば、コンピュータそのものの機能、ハードディスクやメモリといった「B-情報技術」の授業もやらなければならない。

彼が言うにはパスワードもひとつで十分であるということです。複数のパスワードがあるとそのつど、このシステムがどうなっているかの説明を授業でやらなければならない、ということです。だからシングルサインオンは必須の機能です。

-問題の多いシステムのバックアップとリカバリ

教室のPCの故障からいかにシステムをリカバリさせるかがひとつの問題となります。ある先生は、ドングル付のドライブ書き込み禁止ハードウェアをつかっていますが、これはPCを初期状態に戻してしまうので、パッチの適用、アプリケーションの追加などを行う都度、ドングルを解除して作業しなければならないという問題がありました。これは多大な工数のかかる作業となります。

一番スマートに管理しているところでは Symantec Ghost を使って機種ごとにディスクイメージをばら撒く方法で成功しています。パッチや新しいバージョンのソフトウェアが手に入ると、ソースマシンでテストして、Ghost で全PCをターゲットにバラ撒くという方法です。 ZENworks Imaging にも同様な機能がありますが、先生は慣れている Ghost をお使いです。先生用のマイドキュメントもネットワークにリダイレクトしています。

また先生の持ち込みPCは必ず Novell Client を入れて、必要なセキュリティに関するポリシーをダウンロードできるようにしました。この作業は一見面倒に思えますが、 Novell Client を導入するという行為自体を情報管理担当の教諭が確認できるため、勝手にPCをつないで、情報流出という事故を防ぐ効果があります。最近はさすがにPCを持ち込むということは許されませんが、数年前はそれが当たり前でした。何しろ、買ってきたサラのPCをドメインにつないで自分のIDとパスワードを設定すれば、今でも勝手に接続することは簡単なのです。

-ディレクトリの構造

eDirectory は、先生、生徒、施設の3つのOUがあり、生徒はさらに Blue, Red, Green の3学年ごとのOUを作りました。 Blue, Red, Green は主な公立高校で当然のように使われているあの忌々しいジャージの色です。クラスは容易に編集できるよう、グループオブジェクトとしました。

施設コンテナには PC-Room や Library(図書館) などの施設コンテナを作り、教室ごとに利用できるプリンタドライバが自動的にその施設のプリンタになるよう作りこみました。デフォルトプリンタはユーザのプロパティです。これは移動プロファイルを使うときに問題になりましたが、 ZENworks の機能を使って、ワークステーションオブジェクトごとにデフォルトプリンタをリセットしています。また、サーバなどはすべてこのコンテナに収納しています。

生徒は三学期の終わり;には「卒業」し、残った2学年の「クラス」というグループを解散させ、新しいグループに「クラス分け」します。新入生は卒業したジャージの色に「入学」して「クラス分け」されます。これで1200名の生徒の移動は終ります。その考え方さえ分かれば半日の処理でクラス編成は終ります。

-今後の課題

この3人の優秀な先生たちは、公立高校の常として、昨年の春みんな別な学校に移動してしまいました。移動した先でも同じようなシステムを構築したいと願ったことでしょうが、残念ながら、ノベルのポリシーにより「同時接続数」から「ユーザ数」でライセンスを購入しなければならなくなり、少ない予算ではノベル製品を導入することができません。

一般的な高等学校では2教室+教職員用で約120台程度のPCが稼動しているのが普通だし、夏休み、冬休み、放課後(といっても5時には生徒は帰る)ことを考慮すると、1300名分のライセンス料はあまりにも高価すぎます。一般企業の10%にも満たない稼働率からすると、学校向けのライセンスもその程度まで抑えてほしいところです。

また、自治体と事務機専門のSIベンダーとの癒着が大きく、技術の判らない「教育委員会」が「情報教育」に必要な機器を決めてしまい勝ちです。確かに教職員の「標準化」は必要かもしれませんが、今更に「情報リテラシ」のトレーニングで終っている高等学校の授業が意味あることなのかはわかりません。

とにかく、私が担当した3校のシステムを担当した先生達は、個性的で先進的な「情報社会」の授業にトライし続けるでしょう。

非番のエンジニア
by islandcenter | 2008-02-29 14:14 | ZENworks | Comments(0)