ケーススタディ:ZENworks を導入した日

P社は、アメリカ東海岸の某都市に本社があるマーケット調査・コンサルティング会社です。あまりにも有名すぎてこれ以上説明すると「え、あそこもなの?」ってくらい業界に影響力のある会社なのでこれ以上は説明できません。

P社は世界の主な都市を拠点に100名程度のオフィスを構える。サーバの台数や eDirectory の構成からしておよそ50拠点弱くらい。本社のIT部門は結構いいシステムを企画しては構築していますが、システムやセキュリティポリシーは、業務内容とは違い、割と緩やかな方です。もう付き合いは10年近く経つのですが、ZENworks を導入したのは5~6年前でしょうか。

どういったポリシーを設定すれば良いのかということを本社のIT担当者に聞いてもらったところ、画面のハードコピーが5~6枚送られてきただけでした。ドキュメントも、なんの要求もありません。

こちらとしては「??????」です。どうも外資系企業にはITに関して厳しくグローバリゼーションを行うところとそうでないところとの差が極端です。P社は後者です。

ただし言いたいことは理解できました。各都市にある拠点には下手をするとIT担当者が不在なこともあり、本社のヘルプデスクがサポートを行いたいということのようです。特に米国東海岸に本社があるにもかかわらず、P社の主力オフィスは西海岸にもあります。そのため、ZENworks のデスクトップ管理(リモート管理)は不可避の要求のようです。また、パッチの配布やアプリケーションをリモートでもインストールできるよう、NAL ラウンチャは必須のようでした。

P社はマンスリーの調査報告書を書く必要から、毎月本社から Office 製品のテンプレートが送られてきます。P社の調査員はこのテンプレートを使って文書を書かなければなりません。このテンプレートはP社の本社から毎月配布されるのです。これは P社のレポートのアイデンティティとして重要なことでした。

P社の日本法人はそれまでかなり放漫な経営だったようで、前社長が更迭されて、現社長になってから、かなり経費の節約、コスト削減に取り組むようになりました。ITの担当者も変わりました。ディレクトリサービスだけは、米国本社から来たIT担当者がインストールしたそうです。結果残されたのが、それまでベンダー言いなりで作られたP社の複雑なネットワークシステムでした。

後に一度P社の米国本社のCIO氏が来日した際にも呼ばれてミーティングをしたことがあるのですが、各地に分散したオフィスのITにかかるコストをどう下げるかが彼らの目標だったようです。PCのみならず、ネットワークのインフラであるHUB、DNSサーバ、メールサーバといったものにもメスが入りました。

私はP社から一台PCを借りて、テスト用の ZENworks のサーバを準備しました。そこにインベントリインポートとオブジェクト登録用のプログラムを走らせ、さらにテスト用PCを使って何度も Workstation Manager や Launcher のテストを行いました。ここでどのようなことが始まるか、 ZENworks がどういう働きをするのかを、日本の現地法人のIT担当者と打ち合わせし、実際の移行の際発生するトラブルやそこからの復旧方法、アプリケーション配布のテストを行い、文書化しました。ZENworks のインストールは30分で終りますが、システムの移行、PCへの導入は計画的に時間をかけてやる必要があります。

私はP社のシステムポリシーにちょっとした手を加えました。スクリーンセーバとパスワードロックダウンの機能です。ついでにブラウザのトップページを自社のページにしようとしたり、壁紙をセットしたりしてみましたが、これはユーザから相当評判が悪く、すぐに元にもどしました。(当時私はパーマに失敗してひどい茶髪になってたので、「あの茶髪が何かしたんだろう」と言われたそうです)

さて移行のためにはワークステーションマネージャを導入しなければなりません。これはセットアップ用のアカウントから自動インストールできるように設定しました。

実際、翌日には出勤してきたエンドユーザにいくつかのトラブルが発生しました。DLUの結果、登録済みユーザではなく、新規にユーザが作られてしまうというトラブルが続出してしまったのです。また、なぜか経理のシステムだけ、ドメインユーザだったため、DLUをするとまずいことになります。なぜ経理のユーザだけがドメインを使っていたかは謎です。つまり過去のシステムがどう作られていたかを当時の担当者すら分からなかったということです。もちろん文書も残っていませんでした。

それまでP社のシステムはトラブル続きだったのですが、余計なシステムの贅肉を剥がしてからかなり安定したシステムになったようです。特に評判が良かったのは、ZENworks でのグループポリシーによるスクリーンセーバとパスワードロックダウンの機能で、この機能は米国本社からの指示にもなかったことです。セキュリティ監査があったとき、その説明をしたところ大変感心していたと当時の担当者は喜びました。

P社の日本法人はその後も業務を拡大しており、ビルの移転、オフィスの増床を行いました。それでも日本のオフィスはそれほど広いわけではないので、ヘルプデスクの機能はあまり使われていないようです。しかし、ZENworks のインベントリ管理は強力で、いくらスプレッドシートなどでPCを管理していても、そこに実際にPCがあるのかどうか、誰が使っているかは ZENworks を使えばすぐ判るようになる点が好評なようです。

P社との付き合いは終りましたが、まだ担当者とは連絡を取ります。適時必要な提案ができるよう心がけています。

なぜかP社のレポートがウェブの翻訳や新聞などのメディアで公開されたとき Novell の悪口が多いのは、調査レポートを書く彼らが毎日嫌というほど見る見慣れたシステムだからでしょう。また、茶髪になってしまった、私のことを不愉快に思った方もいらっしゃったのかもしれません。(後にエンドユーザさんとも飲みにいける機会がなんどかありましたが)ユーザとしてはもう少し自由に使わせろという暗黙のプレッシャーを感じます。

しかしP社のCIO氏が「我々は Novell の重要な顧客なのだ」と胸を張ったことを思い出します。

-こぼれ話

P社のサーバ室のラックは耐震構造になっています。地震が来ると下のローラーが皿の上でツイストダンスを踊って衝撃を吸収するようなシステムです。できれば移設の時に窒素ガスの消化装置をつけてくれないかという要求があったらしいのですが、どう見積もっても桁が違うということであきらめてくれました。

一度サーバ室で仕事をしていたとき、震度4の地震が首都圏を襲ったことがあるのですが、あ、グラっと来た時ラックがちゃんと揺れているかどうか確認していました。 性ですね。

でも私にはあの時、サーバルームに窒素ガスの消火器がなくてよかったのかも知れません。



非番のエンジニア
by islandcenter | 2008-03-02 14:24 | ZENworks | Comments(0)